準静等温過程

準静等温過程では、ある2つの状態間での過程で得られる仕事は常に一定であり、かつ取り出す仕事の大きさは必ず不可逆過程の同じ状態間で得られる値以上となり、する仕事の大きさは必ず不可逆過程で必要な値以下となることを熱力学第二法則トムソンの原理(2 $^{\text{p.\pageref{sec-2ndLaw}}}$)より示す。

トムソンの原理は「一様な温度をもつ一つの熱源から熱をとり出しこれを仕事に変換するだけで、ほかには何の結果も残さないような過程は実現不可能である」と表現される。このことから、等温環境下においてある状態Aからある状態Bまで変化し再度状態Bから状態Aまで戻った時に、取り出した仕事が周囲からされた仕事より大きくなってはいけない。図5.19のように体積が $V_\mathrm{A}$[m$^3$]の状態Aから体積が $V_\mathrm{B}$[m$^3$]の状態B(ここで $V_\mathrm{A} < V_\mathrm{B}$)へ膨張する過程A→B(以後AB)では周囲に仕事 $W_\mathrm{AB}$[J]をし、再度状態Aへ戻る圧縮過程B→A(以後BA)では周囲から仕事 $W_\mathrm{BA}$[J]をされる。熱力学第二法則トムソンの原理から周囲からされた仕事が大きくなくてはいけないので、可逆サイクルでも不可逆サイクルでも以下の式が成り立つ。

$\displaystyle \vert W_\mathrm{AB} \vert \leq \vert W_\mathrm{BA} \vert$ (5.8)

図 5.19: 等温過程
\includegraphics[width=100mm]{figures/IsothermalAB.pdf}

次に式(5.8)が準静等温過程(可逆過程)の場合と不可逆等温過程の場合の関係を示す。過程AB、過程BAともに準静等温過程(可逆過程)である場合、まったく逆の過程であるので、仕事の大きさも等しくなる。もし、仕事が等しくならないとすると、仕事の大きい過程を仕事を取り出す過程とし仕事の小さい過程を仕事をする過程とすることにより、式(5.8)が成り立たずトムソンの原理に反するため、必ず以下の式が成り立つ。

$\displaystyle \vert W_\mathrm{AB可} \vert = \vert W_\mathrm{BA可} \vert$ (5.9)

過程ABが準静等温過程で過程BAが不可逆等温過程の場合にも、式(5.8)から以下の式が成り立つ。

$\displaystyle \vert W_\mathrm{AB可} \vert \leq \vert W_\mathrm{BA不} \vert$ (5.10)

また、同様に過程ABが不可逆等温過程で過程BAが準静等温過程の場合にも、式(5.8)から以下の式が成り立つ。

$\displaystyle \vert W_\mathrm{AB不} \vert \leq \vert W_\mathrm{BA可} \vert$ (5.11)

上で求めた可逆過程と不可逆過程の関係を示した式(5.9)-(5.11)より圧縮過程、膨張過程それぞれでの可逆・不可逆の過程の関係を示す。 過程ABの環境から仕事を取り出す膨張過程での可逆と不可逆の関係は式(5.9)と式(5.11)から、以下の式で表される。このように準静等温過程で等温過程において最大の仕事を取り出すことができる。

$\displaystyle \vert W_\mathrm{AB不} \vert \leq \vert W_\mathrm{AB可} \vert
$

過程BAの仕事をする圧縮過程での可逆と不可逆の関係は式(5.9)と式(5.10)から、以下の式のように表される。このように準静等温過程は他の等温過程と比べると最小の仕事で同じ過程をおこなうことができる。

$\displaystyle \vert W_\mathrm{BA可} \vert \leq \vert W_\mathrm{BA不} \vert
$

以上のように、等温過程において準静等温過程での仕事は必ず同じであり、過程の前後の状態でのみ決まる。準静等温過程は膨張の過程において必ず不可逆の過程よりも大きな仕事を取り出せ、圧縮の過程では不可逆の過程よりも必要な仕事は少ない(D.8 $^{\text{p.\pageref{sec-AppendixIrreversibleWork}}}$に詳細を記す)。

熱力学の第一法則の式(1.19) $^{\text{p.\pageref{eq-1stLaw}}}$より

$\displaystyle \Delta U = Q + W$

と表される。ここで左辺の$\Delta U$[J]は内部エネルギーが状態量であるので、変化の前後の状態で決まる。また、準静等温過程では仕事 $W_\mathrm{可}$[J]も前後の状態で決まるため、準静等温過程では熱量 $Q_\mathrm{可}$[J]も前後の状態で決まる5.14



脚注

...[J]も前後の状態で決まる5.14
準静過程でない場合は仕事が前後の状態で決まらないため、熱量もどの程度の大きさとなるか前後の状態だけでは分からない。
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