取り出せる仕事と不可逆性

内部が熱力学的平衡でない不可逆過程では、熱力学的平衡の可逆過程に比べ膨張過程で取り出せる仕事が小さくなり、圧縮過程で必要な仕事が大きくなる。例えば、等温変化において圧力変化での圧縮や膨張による内部の温度変化が壁からの伝熱による温度変化よりも早ければ、内部の温度が周囲の等温環境の温度とは異なる。膨張過程では周囲よりも温度が低くなり、周囲と同じ温度の場合よりも圧力が低くなる。そのため取り出せる仕事は小さくなる。圧縮過程では周囲よりも温度が高くなり、周囲と同じ温度の場合よりも圧力が高くなる。そのため必要な仕事が大きくなる。 また、ピストンの移動速度によりやりとりする仕事が変化することも考えられる D.10

不可逆過程ではサイクル内部の流体が可逆過程と同じ仕事のやりとりをしても、外部とやり取りする仕事の大きさが異なる。不可逆損失の多くがピストンの可動壁によるものであり、ピストンの可動壁がなく系内で局所熱力学的平衡(3.1.2 $^{\text{p.\pageref{sec-LocalThermodynamicEquilibrium}}}$)が成り立っており十分に小さな系を考えれば、実際の現象においても断熱変化は可逆過程となりうる(系の内部で流れによる粘性消散D.11がある場合は不可逆)。



脚注

... また、ピストンの移動速度によりやりとりする仕事が変化することも考えられるD.10
系の内部分子の速度に対してピストンの速度が速いとき、膨張過程ではピストン壁が遠ざかることから受ける圧力が小さくなり、取り出せる仕事が減る。無限大の速度でピストンを瞬間的に移動させると自由膨張過程(D.3 $^{\text{p.\pageref{sec-Expansion}}}$)のように取り出せる仕事はゼロである。圧縮過程では壁と分子の相対速度が増加するため必要な仕事が増える。この影響がみられるピストンの速度は音速のオーダーであり、圧力波が発生すると思われる。通常、移動速度により変化する仕事の量は測定できないほど小さい。
...)が成り立っており十分に小さな系を考えれば、実際の現象においても断熱変化は可逆過程となりうる(系の内部で流れによる粘性消散D.11
流れで渦が発生し徐々に小さな渦となり粘性により運動エネルギーが熱に変換される。
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