閉じた系のサイクルでの過程

閉じた系のサイクルで行われる過程のうち断熱や体積一定、圧力一定のような特徴的な過程をいくつか示す。過程の始めと終わりは必ず熱力学的平衡であり、平衡ではない変化の途中は扱わない。系の温度を$T$[℃またはK]、圧力を$P$[Pa]、体積を$V$[m$^3$]、内部エネルギーを$U$[J]、伝わった熱を$Q$[J]、やりとりした仕事を$W$[J]とする。また、過程の始めの系の状態に下付き始を終わりの状態に下付き終をつけて表す。 熱力学第一法則の式(1.19) $^{\text{p.\pageref{eq-1stLaw}}}$から内部エネルギーの変化を知ることができる。

$\displaystyle \Delta U = Q + W$ (1.19)

断熱過程

系と周囲で熱のやりとりのない状態で可動壁を動かし(圧縮または膨張)、仕事のみやりとりする過程。図5.2に示すように、膨張過程では体積が増加し周囲にした仕事と同量の内部エネルギーが減少し温度が低下する。温度が低下し体積が増える過程では通常圧力は低下する。また、圧縮過程では体積が減少し周囲から仕事をされ、内部エネルギーが同量増加し温度が上昇する。温度が上昇し体積が減る過程では通常圧力は上昇する。

図 5.2: 断熱過程
\includegraphics[width=120mm]{figures/ClosedSystemProcessesAdiabatic.pdf}

等積過程

可動壁を固定し系の体積が変化しない(仕事のやりとりがない)状態で、周囲(熱源)と熱のみやりとりをする過程(図5.3)。この過程では系と周囲(熱源)の温度が異なり、高温側から低温側へと熱が伝わる。熱力学的平衡状態の系を熱源に接触させ、非平衡で熱が伝わり、(系と熱源を離し、十分に時間が経った後)系内部が熱力学的平衡となってから過程を終了する 5.6。 加熱過程では系より温度の高い熱源に接触させ、系は熱源から熱を受け取る。加えられた熱と同じ量だけ内部エネルギーが増加するため温度が上昇する。体積が一定で温度が上昇する過程では通常圧力も上昇する。 冷却過程では系より低い熱源に接触させ、系は熱源から熱を奪われる。奪われた熱と同じ量だけ内部エネルギーが減少するため温度が下がる。体積が一定で温度が低下する過程では通常圧力も低下する。

図 5.3: 等積過程
\includegraphics[width=120mm]{figures/ClosedSystemProcessesIsometric.pdf}

等温過程

系と周囲(熱源)の温度が始めと終わりで等しい過程で、系と周囲で仕事と熱どちらもやりとりがある(図5.4)。周囲の熱源の温度は常に一定の温度である 5.7。 始めの状態から系が周囲に仕事をして膨張すると、温度が低下し熱源よりも温度が低くなるため、熱が熱源から系へと伝わる。この時は系は周囲に仕事をし、周囲から熱が伝わる5.8。 温度が一定で体積が増加すると一般的に圧力は低下する(気液二相の共存状態であれば圧力は一定)。 また、初めの状態から系が仕事をされ圧縮されると、温度が上昇し熱源よりも温度が高くなるため、熱が熱源へと伝わる。この時は仕事が系にされ、熱は系から周囲へ伝わる。 温度が一定で体積が減少すると一般的に圧力は上昇する(気液二相の共存状態であれば圧力は一定)。 系の圧縮や膨張(仕事の作用)が終わると熱源とやりとりがなくなる。その後、系と熱源が熱平衡となり系内部も熱力学的平衡となった後に過程を終了する。 内部エネルギーの変化は系内部の物質の性質による。

図 5.4: 等温過程
\includegraphics[width=120mm]{figures/ClosedSystemProcessesIsothermal.pdf}

等圧過程

系にかかる圧力を一定とし、系と周囲で仕事と熱どちらもやりとりがある過程(図5.5)。かかる圧力を一定とし熱力学的平衡状態の系を温度の異なる熱源に接触させる。 熱源の温度が系よりも高い場合は、系に熱が伝わり系の温度が上昇し圧力がわずかに周囲より高くなり膨張することで周囲に仕事をする。この場合では系は熱を受け仕事を周囲にする。圧力が一定で体積が増加すると一般的に温度は上昇する(気液二相の共存状態であれば温度は一定)。 熱源の温度が系よりも低い場合は、系から周囲に熱が伝わり系の温度が低下しわずかに周囲より圧力が低くなり収縮することで周囲から仕事をされる。この場合は周囲に熱を伝え系は仕事をされる。圧力が一定で体積が減少すると一般的に温度は低下する(気液二相の共存状態であれば温度は一定)。 (過程が終わる前に系と熱源を離し)系内部が熱力学的平衡となってから過程を終了する。 内部エネルギーの変化は系内部の物質の性質による。

図 5.5: 等圧過程
\includegraphics[width=120mm]{figures/ClosedSystemProcessesIsobar.pdf}

上記の過程を組み合わせることで、熱機関やヒートポンプのサイクルを構成することができる。変わった過程として付録D.3 $^{\text{p.\pageref{sec-Expansion}}}$に示す自由膨張過程がある。

問題

どんな過程の組み合わせで、高温の熱源から低温の熱源へ伝わる熱から仕事を取り出したり(熱機関)、低温から高温へ熱を伝える(ヒートポンプ)ことができる二つの熱源間で作動する閉じた系のサイクルとなるか、例を示せ。熱機関とヒートポンプのサイクルについては次節から具体的に示すが、理解を深めるために先に自分で考えてみよう。

必要な条件



脚注

...fig-Isometric)。この過程では系と周囲(熱源)の温度が異なり、高温側から低温側へと熱が伝わる。熱力学的平衡状態の系を熱源に接触させ、非平衡で熱が伝わり、(系と熱源を離し、十分に時間が経った後)系内部が熱力学的平衡となってから過程を終了する 5.6
過程の始めと終わりの状態は熱力学的平衡状態でなくてなはらない(5.1.1 $^{\text{p.\pageref{sec-Equilibrium}}}$)。
...fig-Isothermal)。周囲の熱源の温度は常に一定の温度である 5.7
周囲の熱源が有限の大きさであれば、熱を受け取れば温度が上がり熱を奪われれば温度が下がる。しかし、ここでは無限の大きさの周囲の熱源を考え熱のやり取りによる温度の変化は十分に小さいと考える。
... 始めの状態から系が周囲に仕事をして膨張すると、温度が低下し熱源よりも温度が低くなるため、熱が熱源から系へと伝わる。この時は系は周囲に仕事をし、周囲から熱が伝わる5.8
一様な温度をもつ一つの熱源から熱を取り出し仕事に変換しているが、系が膨張するという結果を残しているので熱力学第二法則トムソンの原理2 $^{\text{p.\pageref{sec-2ndLaw}}}$には反しない。
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