温度の基準

温度の測定の基準となる温度計はどのように作ればいいだろうか。基準としやすい温度として、水は約100℃で沸騰する。大気圧下で水が沸騰しているときは常に約100℃である。また、水が凍り始める、水と氷が混ざった状態は大気圧下では常に約0℃である。これは身の回りで簡単に実現できて、温度もほぼ一定となるため、基準としやすい(ただ水の沸騰の温度と凍結の温度は気圧や水の純度により変わるため正確な基準とはならない)。 摂氏温度は初めはこの水が沸騰する温度と凍り始める温度を基準としていた。 その後、圧力によらない基準点として特定の物質の三重点が用いられてきた。 1990年国際温度目盛(ITS-90)[]では、ネオンの三重点 3.2 24.5561 Kや水の三重点273.16 Kなどが絶対温度の基準温度として決められている。この基準温度の間の温度を決めるための方法が必要である。長さや質量と違い、温度では基準の間の値を決めることが難しい。 先に示した図3.1 $^{\text{p.\pageref{fig-TemperatureComparison}}}$のように、長さや質量と違い複数個基準があればより長くより重く測れるわけではなく、基準がいくつあっても同じ温度にしかならない。

例えば、基準温度であるネオンの三重点24.5561 Kと水の三重点273.16 Kの物体が手元にある場合に、自分の体の温度が何度であるか知るためにはどうしたらいいだろうか。図3.1 $^{\text{p.\pageref{fig-TemperatureComparison}}}$のように自分の長さを測る場合には、基準となる0.1 mの物体が複数個あれば2つで0.2 m、3つで0.3 mと基準となる物体に応じた精度で長さを知ることができる。また、質量であれば、自分の質量を測る場合に基準となる1 kgの物体が複数個あれば、秤を使うことにより重量を比較しある程度の精度で質量を知ることができる。しかし、温度は示強性状態量であるので24.5561 Kの基準が何個あっても、他の温度を測ることはできない(2つで49.1122 Kのように)。24.5561 Kの物体は何個あっても24.5561 Kのままである。

では、現在流通されている温度計はどのように温度を測っているのだろうか。よく見かける棒温度計では内部の液体(水銀や赤色の色素の入ったエタノール)が温度上昇で膨張することを利用し、体積に応じた温度を示している。沸騰する水と局所的に熱平衡とし、その時の棒温度計の指示値を100℃とする。次に氷水と局所的に熱平衡とし、そこを0℃とする。これで、二つメモリができた。しかし、その間の30℃や50℃はどのようにメモリをふればいいだろうか。この液体の体積と温度の関係は単純に温度が二倍になれば体積が二倍という変化ではなく、温度ごとに体積変化の傾向が違う。そのため、温度による体積変化を利用した棒温度計を作るには、体積と温度の関係を知る必要がある。体積と温度との関係を知るためには(温度計を作るためには)、基準となる温度の間を埋める方法が定義されている必要がある。



脚注

...1991NRLMでは、ネオンの三重点 3.2
三重点とは三相(例えば気相・液相・固相)が共存する状態である。ギブスの相律により三相が共存する状態では温度と圧力が変化しない。二相状態では温度と圧力どちらかのみ変化できる(水の沸点は圧力が決まれば温度が決まり、沸騰する状態は点ではなく線で表される)。単相状態ではどんな温度、圧力の状態でもとれる。
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