準静的過程

準静的過程は平衡状態を保ったまま無限の時間をかけて変化する過程で可逆過程である。可逆過程を組み合わせることで可逆サイクルが成り立つが、可逆過程は実際には実現できない。例えば、熱が伝わる過程は必ず不可逆の過程となる(2.2.3 $^{\text{p.\pageref{sec-HeatIrreversibility}}}$)。また、体積が変化し仕事が作用する過程でも必ず不可逆となる。これは、系の体積を変化させるために、系内部からの力と周囲からの力を比べた際に動く方向の力が大きくならなくてはならない。すなわち系の圧力が同じでも圧縮の過程と膨張の過程では周囲からの力は圧縮過程が大きくなるため、不可逆となる(付録D.6 $^{\text{p.\pageref{sec-AppendixIrreversible}}}$)。そこで可逆の過程を考えるために、現実には実現不可能な準静的過程を考える。準静的過程では考えている閉じた系と周囲との間で常に平衡が成り立っており、系の内部と周囲でもそれぞれ平衡が維持されている過程である。平衡状態は釣り合いがとれ変化をしなくなった状態であるので、可逆の現象である。しかし、平衡状態が続いても状態は変化しない。そこで平衡状態で極微小な変化をしており、その変化が無限時間続くことで平衡状態で可逆の変化が起こる、と考えるのが準静的過程である。 系と周囲で物質のやり取りがない閉じた系であれば、熱平衡と力学平衡について考える。 2.4

まず系と周囲との間で力学平衡を成り立たせるための条件を考えよう。系と周囲が力学平衡にあれば系から境界への力と周囲から境界への力が等しい。境界の両端での力が等しい状況では境界は動かないため、系は変化しない。そこで準静的過程ではゼロの極限をとった微小な圧力差 $\mathrm{d}P$[Pa]を考える。極微小な圧力差による変化では境界の移動量も極微小であり限りなくゼロに近い値となるがゼロではなく仕事も極微少に作用する。移動量が極微小であるため、境界が動くには無限の時間が必要となる。このように、準静的過程では力学平衡を保ったまま(微少圧力差により)無限の時間をかけ境界を移動させることで、仕事が作用する。

次に系と周囲の間で熱平衡を保ったままでの熱の移動を考える。系と周囲が熱平衡にあるとき、系と周囲の温度は等しい。系と周囲にゼロの極限をとった極微小な温度差 $\mathrm{d}T$[℃またはK]を考え、熱が伝わっている時間を無限大と考えれば、熱平衡を保ったまま(極微小な温度差により)無限の時間をかけて熱を伝えることができる。

系の内部で熱力学的平衡を維持するための条件を考えよう。系の内部で、熱平衡が成り立つためには温度分布がなく、力学平衡のためには圧力分布がなく渦などの流れはない状態とならなくてはならない。極限をとった微小な温度変化や圧力変化であれば、常に温度分布・圧力分布がなく熱平衡・力学平衡が維持されていると考えられる。

上記のように、微小な圧力差と微小な温度差により熱力学的平衡を維持したまま、無限の時間をかけて系を変化させる可逆過程が準静的過程である。準静的過程では無限の時間が必要であり、現実では不可能な仮想的な過程である。準静的過程におけるゼロの極限をとった微小な差の詳細については、付録D.5 $^{\text{p.\pageref{sec-QuasiStaic}}}$に記す。また、準静的過程が可逆となり、準静的過程でないと不可逆過程となる理由については、付録D.6 $^{\text{p.\pageref{sec-AppendixIrreversible}}}$に記す。



脚注

... 系と周囲で物質のやり取りがない閉じた系であれば、熱平衡と力学平衡について考える。2.4
また断熱変化では熱平衡を、等積変化では力学平衡を考える必要がない。
トップページ
この図を含む文章の著作権は椿耕太郎にあり、クリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際 ライセンスの下に公開する。最新版およびpdf版はhttps://camelllia.netで公開している。