経路積分

前節のように経路が単純な過程の組み合わせでない場合には、経路全体を積分し仕事を求める。積分するには経路を指定した経路積分が必要であり、計算の際には媒介変数が用いられる。 媒介変数として時間$t$ 1s (単位:無次元) [s] を取り具体的な計算をしてみる。 体積$V$は次式のように初め3.0 $\times$ 10$^{-3}$ m$^3$(3.0 リットル)で1 s毎に0.1 $\times$ 10$^{-3}$ m$^3$圧縮される。

$\displaystyle V$ $\displaystyle = 3 \times 10^{-3} \; \mathrm{m^3} - (0.1 \times 10^{-3} \; \mathrm{m^3/s}) t$ (D.11)

圧力$P$は1.0 $\times$ 10$^5$ Pa(約一気圧)から次式D.4のように増えていくとする。

$\displaystyle P$ $\displaystyle = \frac{1 \times 10^5 \mathrm{ Pa} \times (3 \times 10^{-3} \; \m...
... \times 10^{-3} \; \mathrm{m^3/s})t + 3 \times 10^{-3} \; \mathrm{m^3}\}^{1.4}}$    
  $\displaystyle \simeq 29.37 \; \mathrm{m^{4.2} Pa} \{-(0.1 \times 10^{-3} \; \mathrm{m^3/s})t + 3 \times 10^{-3} \; \mathrm{m^3}\}^{-1.4}$ (D.12)

式(D.11)に示すように$V$$t$のみの一変数関数として表されている。$V$$t$での微分を求める。

$\displaystyle \dfrac{\mathrm{d}V}{\mathrm{d}t}$ $\displaystyle = - 0.1 \; \mathrm{m^3/s}$    
$\displaystyle \mathrm{d}V$ $\displaystyle = - 0.1 \; \mathrm{m^3/s} \; \mathrm{d}t$ (D.13)

仕事の微小量を求める式(D.10)に式(D.12)と式(D.13)を代入して0 sから $t_\mathrm{f}$まで経路積分をする。経路中にされた仕事を求めたいので、0 sでの仕事は0 Jである。

$\displaystyle \int^{t=t_\mathrm{f}}_{t=0} \delta W$ $\displaystyle = \int^{t=t_\mathrm{f}}_{t=0} - P \mathrm{d}V \nonumber$    
  $\displaystyle = \int^{t_\mathrm{f}}_0 - [(29.37 \; \mathrm{m^{4.2} Pa}) \; \{-(...
...mes 10^{-3} \; \mathrm{m^3}\}^{-1.4} ] (- 0.1 \; \mathrm{m^3/s} \; \mathrm{d}t)$    
  $\displaystyle = \int^{t_\mathrm{f}}_0 [(2.937 \; \mathrm{m^{7.2} Pa/s}) \; \{-(...
... + 3 \times 10^{-3} \; \mathrm{m^3}\}^{-1.4} ] \; \mathrm{m^3/s} \; \mathrm{d}t$    
  $\displaystyle = \left[ \frac{2.937 \; \mathrm{m^{7.2} Pa/s}}{(-0.1 \times 10^{-...
...m{m^3/s})t + 3 \times 10^{-3} \; \mathrm{m^3}\}^{-0.4} \right]^{t_\mathrm{f}}_0$    
  $\displaystyle = (73.425 \; \mathrm{m^{4.2} Pa}) [\{-(0.1 \times 10^{-3} \; \mat...
...0^{-3} \; \mathrm{m^3}\}^{-0.4} - \{ 3 \times 10^{-3} \; \mathrm{m^3}\}^{-0.4}]$    
  $\displaystyle \simeq (73.425 \; \mathrm{m^{4.2} Pa}) [\{-(0.1 \times 10^{-3} \;...
...rm{f} + 3 \times 10^{-3} \; \mathrm{m^3}\}^{-0.4} - 10.21 \; \mathrm{m^{-1.2}}]$    

この変化を前節と同じように図D.2に表す。状態の変化に対して仕事が線で表される。
図 D.2: 媒介変数表示による仕事
\includegraphics[width=120mm]{figures/WorkCourse.pdf}



脚注

... Pa(約一気圧)から次式D.4
二原子分子の理想気体が可逆断熱変化したと仮定し、「$PV^{1.4}=$一定」の関係を用いる。
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