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4.2.1 定義

エントロピーを定義する4.2。 全体として断熱された系において不可逆の指標となる状態量としたい 4.3。そこで次の三つの条件が成り立つようにエントロピーを定義する。
  1. 断熱された一つの系での可逆の変化では(仕事の作用があっても)エントロピーは変化しない。
  2. 断熱された一つの系の状態が変化した際、不可逆の変化であればエントロピーが増加する。
  3. 全体は断熱された内部に複数の系が存在し、それぞれの系の間では熱のやりとりがある場合でも全体では条件1と条件2が成り立つ。

条件1で示したように断熱された系が可逆変化した場合、エントロピー$ S$ は変化しないように定義したい。可逆断熱変化でのエントロピーの変化を $ \mathrm{d}S_\mathrm{可逆断熱}$ とすると条件1は次式で表される。

$\displaystyle \mathrm{d}S_\mathrm{可逆断熱} = 0$ (4.2)

条件2の不可逆の変化で増加する性質を考える。温度差がある物体間で熱が伝わる場合や、熱が発生する場合は現象は不可逆となる 4.41.3.2 $ ^{\text{p.\pageref{sec-HeatIrreversibility}}}$ )。 熱が大きいほど元の状態からより離れるので、不可逆な変化量が大きいといえる。 そのため、熱量$ Q$ [J]とエントロピーの変化量$ \Delta S$ が比例するように条件2は次のように表す。

$\displaystyle \Delta S \propto Q$ (4.3)

条件3の全体は断熱された系の内部に複数の系があり内部で熱のやり取りのある場合を考える。ここでは内部の系として、高温熱源の系と低温熱源の系4.5、カルノーサイクルがあり、図4.1のように全体として断熱されているとする。 高温物体と低温物体の間で可逆サイクルであるカルノーサイクルを用いると、高温熱源から低温熱源へと熱が伝わる際に仕事を取り出し、逆の過程では仕事を与えて低温熱源から高温熱源へ熱を伝えることができる。カルノーサイクルではこのように仕事が作用することで可逆の過程で熱を伝えることができる。 カルノーサイクルの過程は可逆であるので、条件3(複数の系で条件1)が成り立つように、サイクルが動作しても全体としてエントロピーが増加しないようにエントロピーを定義したい。サイクルでは一サイクルの初めと終わりの状態が変わらないため状態は変化せず状態量も変わらない。エントロピーも一サイクルの始めと終わりで同じ状態となるため、カルノーサイクルを含む全てのサイクルは一サイクル中でエントロピー $ S_\mathrm{cycle}$ は変化しない。

$\displaystyle \Delta S_\mathrm{cycle} = 0$ (4.4)

熱機関としての動作する場合、条件2(式(4.3))より高温熱源は熱を奪われるためエントロピーは減少し( $ \Delta S_\mathrm{H} < 0$ )、低温熱源は熱を受け取るためエントロピーは増加する( $ \Delta S_\mathrm{L} > 0$ )。全体としてのエントロピーの変化( $ \Delta S_\mathrm{total}$ )は各系のエントロピー変化の和を求めればよい。

$\displaystyle \Delta S_\mathrm{total} = \Delta S_\mathrm{H} + \Delta S_\mathrm{cycle} + \Delta S_\mathrm{L}
$

ここで式(4.4)のようにサイクルのエントロピー変化はゼロ( $ \Delta S_\mathrm{cycle}=0$ )であり、条件3より(全体で断熱されており可逆)全体でのエントロピーは変化しない( $ \Delta S_\mathrm{total}=0$ )ので変形して次式となる。

$\displaystyle \Delta S_\mathrm{H} = - \Delta S_\mathrm{L}$ (4.5)

可逆過程であるので全体としてエントロピーが変化しないように、この冷却される高温熱源の系でのエントロピーの減少と加熱される低温熱源の系でのエントロピーの増加が上式のように等しくなるように定義する。

条件1条件2を満たすために、式(4.2)と式(4.3)の両方を満たし、条件3を満たすため可逆サイクルであるカルノーサイクルを含む系でエントロピーが変化しない(式(4.5))ように、エントロピーの定義をしたい。 カルノーサイクルでの熱源とやりとりをする熱と温度の関係は、式(1.38) $ ^{\text{p.\pageref{eq-CarnotHeatTemp}}}$ より熱源1を高温熱源、熱源2を低温熱源とすると以下の式で表される。

$\displaystyle \frac{ Q_\mathrm{H 可} }{ \varTheta_\mathrm{H} } = - \frac{ Q_\mathrm{L 可} }{\varTheta_\mathrm{L}}$ (1.38)

熱量をその時の温度で割った値でエントロピーの変化量を式(4.6)のように定義すれば、式(4.2)と式(4.3)の両方を満たし、カルノーサイクルと熱をやり取りする高温熱源の系で減少するエントロピーと低温熱源の系で増加するエントロピーの和はゼロとなる(式(4.5))。

$\displaystyle \Delta S \equiv \frac{Q_\mathrm{可}}{\varTheta}$ (4.6)

上式からエントロピーの単位は[J/K]である。

図 4.1: 熱源とカルノーサイクル
\includegraphics[width=75mm]{figures/CarnotHeatSource.eps}

4.1に示す系で、高温熱源と低温熱源が有限の大きさであれば、カルノーサイクルから熱をやりとりすることで温度が変わるため、等温変化とならない。しかし、等温変化と見なせるように、熱源の温度の変化が十分に小さくなる微小な熱量 $ \delta Q_\mathrm{H可}$ [J]が高温 $ \varTheta_\mathrm{H}$ [K]の系からカルノーサイクルへ伝わり、微小な熱量 $ \delta Q_\mathrm{L可}$ [J]がカルノーサイクルから低温 $ \varTheta_\mathrm{L}$ [K]の系へ伝わったときを考える 4.6。高温の系で微小な熱量 $ \delta Q_\mathrm{H可}$ [J]4.7による微小なエントロピーの変化 $ \mathrm{d}S_\mathrm{H}$ [J/K]は次式で表される。

$\displaystyle \mathrm{d}S_\mathrm{H} = \dfrac{\delta Q_\mathrm{H可}}{\varTheta_\mathrm{H}}
$

低温の系で微小な熱量 $ \delta Q_\mathrm{L可}$ [J]4.8による微小なエントロピーの変化 $ \mathrm{d}S_\mathrm{L}$ [J/K]は次式で表される。

$\displaystyle \mathrm{d}S_\mathrm{L} = \frac{\delta Q_\mathrm{L可}}{\varTheta_\mathrm{L}}
$

この状態で、カルノーサイクルでの温度と熱量の式(1.38)から次式のように高温の系でのエントロピーの減少量と低温の系でのエントロピーの増加量が等しくなる。

$\displaystyle \mathrm{d}S_\mathrm{H} + \mathrm{d}S_\mathrm{L} = \frac{\delta Q_...
...arTheta_\mathrm{H}} + \frac{\delta Q_\mathrm{L 可}}{\varTheta_\mathrm{L}} = 0
$

十分に小さな変化であれば、温度の変化も小さく等温過程と見なせる。十分に小さい可逆変化での $ \delta Q_\mathrm{可}$ [J]により、次式のようにエントロピーを定義する。

$\displaystyle \mathrm{d}S \equiv \frac{\delta Q_\mathrm{可}}{\varTheta}$ (4.7)

3.3.2 $ ^{\text{p.\pageref{sec-IsothermalProcess}}}$ で示したように、準静等温過程であれば、 $ Q_\mathrm{可}$ [J]は内部エネルギーの変化量と前後の状態によってのみ決まるため、エントロピー$ S$ [J/K]も前後の状態で変化量が決まり、状態量であると言える。また、式() $ ^{\text{p.\pageref{eq-dSourceHeatTemperatureRev}}}$ より周回積分するとゼロとなる。

$\displaystyle \oint \frac{\delta Q_\mathrm{可}}{\varTheta} = \oint \mathrm{d}S = 0$    

式() $ ^{\text{p.\pageref{eq-dSourceHeatTemperatureRev}}}$ では熱源の温度だったが、可逆仮定では熱源と系の温度は等しい。


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