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1.7.2 準静等温過程

準静等温過程では、ある2つの状態間での過程で得られる仕事は常に一定であり、必ず不可逆過程での同じ状態間で得られる仕事以上となることを熱力学第二法則トムソンの原理(1.3節 p.[*])より示す。トムソンの原理は「一様な温度をもつ一つの熱源から熱をとり出しこれを仕事に変換するだけで、ほかには何の結果も残さないような過程は実現不可能である」であるので、等温環境下で、ある状態Aからある状態Bまで変化し再度状態Bから状態Aまで戻った時に、取り出した仕事が周囲からされた仕事より大きくなってはいけない。図1.17のように体積が$ V_A$ の状態Aから体積が$ V_B$ の状態Bへ変化し(ここで$ V_A < V_B$ )、再度状態Aへ戻る過程の場合、過程A→B(以後AB)の体積が増加する変化では、周囲に仕事$ W_{AB}$ をし、過程B→A以後(BA)の体積が減少する変化では、周囲から仕事$ W_{BA}$ をされる。トムソンの原理から周囲からされた仕事が大きくなくてはいけないので、常に以下の式が成り立つ。

$\displaystyle \vert W_{AB} \vert \leq \vert W_{BA} \vert$ (1.29)

図 1.17: 等温過程
\includegraphics[width=100mm]{figures/Isothermal.eps}

この関係を使って、準静等温過程での仕事$ W_可$ と不可逆等温過程での仕事$ W_不$ の関係を明らかにする。過程AB、過程BAともに可逆過程である準静等温過程である場合、まったく逆の過程であるので、仕事の大きさも等しくなる。もし、仕事が等しくならないとすると、仕事の大きい過程を仕事を取り出す過程とし、仕事の小さい過程を仕事をする過程とすることにより、式(1.29)が成り立たずトムソンの原理に反するため、必ず以下の式が成り立つ。

$\displaystyle \vert W_{AB可} \vert = \vert W_{BA可} \vert$ (1.30)

式(1.29)が必ず成り立つので過程ABが準静等温過程で過程BAが不可逆等温過程の場合は、式(1.29)に下付きをつけて以下の式となる。

$\displaystyle \vert W_{AB可} \vert \leq \vert W_{BA不} \vert$ (1.31)

また、同様に式(1.29)から過程ABが不可逆等温過程で過程BAが準静等温過程の場合は、式(1.29)に下付きをつけて以下の式となる。

$\displaystyle \vert W_{AB不} \vert \leq \vert W_{BA可} \vert$ (1.32)

式(1.32)と式(1.30)から、環境から仕事を取り出す過程ABの際の関係が以下の式で表される。このように準静等温過程で等温過程において最大の仕事を取り出すことができる。

$\displaystyle \vert W_{AB不} \vert \leq \vert W_{AB可} \vert
$

式(1.31)と式(1.30)から、仕事をする過程BAの際の関係は以下の式のように表される。このように準静等温過程では最小の仕事で同じ過程をおこなうことができる。

$\displaystyle \vert W_{BA可} \vert \leq \vert W_{BA不} \vert
$

以上のように、等温過程において準静等温過程での仕事は必ず同じであり、過程の前後の状態でのみ決まる。準静等温過程は必ず不可逆の過程よりも大きな仕事を取り出せ、不可逆の過程よりも必要な仕事は少ない。 可逆過程についてはB.4(p.[*])に詳細を記す。

熱力学の第一法則の式(1.4) p. [*]より

$\displaystyle \Delta U = Q + W$

と表される。ここで左辺の$ \Delta U$ は内部エネルギーが状態量であるので、変化の前後の状態で決まる。また、準静等温過程では仕事$ W_可$ も前後の状態で決まるため、準静等温過程では熱量$ Q_可$ も前後の状態で決まる1.14


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