可逆サイクルと不可逆のヒートポンプの性能の比較

可逆サイクルと不可逆ヒートポンプ(トムソンの表現)

可逆サイクルRと現実に存在する不可逆ヒートポンプPを比較する。ここで、不可逆ヒートポンプPの成績係数が可逆サイクルRのヒートポンプとしての成績係数よりも高いと仮定し、熱力学第二法則トムソンの表現に反することから可逆サイクルの成績係数が現実の不可逆ヒートポンプよりも高くなることを示す(図B.9)。

成績係数の関係の仮定から次式が成り立つ。

$\displaystyle \epsilon_\mathrm{R 可}$ $\displaystyle < \epsilon_\mathrm{P}$    

上式と成績係数の式(1.25) $^{\text{p.\pageref{eq-EfficiencyPump}}}$より次式が成り立つ。

$\displaystyle \frac{ \vert Q_\mathrm{H, R} \vert }{ \vert W_\mathrm{R} \vert }$ $\displaystyle < \frac{ \vert Q_\mathrm{H, P} \vert }{ \vert W_\mathrm{P} \vert }$    

可逆サイクルRは熱機関としても動作できるので、高温熱源とやりとりする熱の絶対値の大きさを不可逆ヒートポンプPと同じ大きさ( $\vert Q_\mathrm{H, R}\vert = \vert Q_\mathrm{H, P}\vert$)とし熱機関として動作させる(図B.9-右)と次式が成り立つ。

$\displaystyle \vert W_\mathrm{R} \vert$ $\displaystyle > \vert W_\mathrm{P} \vert$    

熱機関とヒートポンプのエネルギーの保存式(1.22)と式(1.26)と、仕事の大きさの関係( $\vert Q_\mathrm{H, R}\vert = \vert Q_\mathrm{H, P}\vert$)から、

$\displaystyle \vert Q_\mathrm{L, R} \vert$ $\displaystyle > \vert Q_\mathrm{L, P} \vert$    

の関係が成り立つ。 このことから、一つの熱源(低温熱源)から $\vert Q_\mathrm{L, P} \vert - \vert Q_\mathrm{L, R} \vert $ を受け取り仕事 $\vert W_\mathrm{R} \vert - \vert W_\mathrm{P} \vert $を取り出すことが出来てしまう(図B.9-右)。よって可逆ヒートポンプよりも効率の良い不可逆ヒートポンプは熱力学第二法則トムソンの表現に反する。よって仮定した不可逆ヒートポンプの成績係数が可逆サイクルのヒートポンプとしての成績係数よりも高いことは間違いであることが分かる。つまり、可逆サイクルのヒートポンプとしての成績係数は現実の不可逆ヒートポンプの成績係数よりも高いことが示された。

図 B.9: 可逆サイクルと不可逆ヒートポンプの比較(トムソンの表現)
\includegraphics[width=150mm]{figures/RevIrrevPumpThomson.pdf}

可逆サイクルと不可逆ヒートポンプ(クラウジウスの表現)

同様に、可逆サイクルRと現実に存在する不可逆ヒートポンプPを比較する。ここでは、不可逆ヒートポンプPの成績係数が可逆サイクルRのヒートポンプとしての成績係数よりも高いと仮定し、熱力学第二法則クラウジウスの表現に反することから可逆サイクルの成績係数が現実の不可逆ヒートポンプよりも高くなることを示す(図B.10)。 成績係数の関係の仮定から次式が成り立つ。

$\displaystyle \epsilon_\mathrm{R 可}$ $\displaystyle < \epsilon_\mathrm{P}$    

上式と成績係数の式(1.25) $^{\text{p.\pageref{eq-EfficiencyPump}}}$より次式が成り立つ。

$\displaystyle \frac{ \vert Q_\mathrm{H, R} \vert }{ \vert W_\mathrm{R} \vert }$ $\displaystyle < \frac{ \vert Q_\mathrm{H, P} \vert }{ \vert W_\mathrm{P} \vert }$    

可逆サイクルRは熱機関としても動作できるので、不可逆ヒートポンプPと同じ大きさの仕事で( $\vert W_\mathrm{R}\vert = \vert W_\mathrm{P}\vert$)熱機関として動作させる(図B.10-右)と次式が成り立つ。

$\displaystyle \vert Q_\mathrm{H, R} \vert$ $\displaystyle < \vert Q_\mathrm{H, P} \vert$    

熱機関とヒートポンプのエネルギーの保存式(1.22)と式(1.26)と、仕事の大きさの関係( $\vert W_\mathrm{R}\vert = \vert W_\mathrm{P}\vert$)から、

$\displaystyle \vert Q_\mathrm{L, R} \vert$ $\displaystyle < \vert Q_\mathrm{L, P} \vert$    

の関係が成り立つ。 このことから、周囲になにも変化を残さず、低温熱源から $\vert Q_\mathrm{H, P} \vert - \vert Q_\mathrm{H, R} \vert $ ( = $\vert Q_\mathrm{L, P} \vert - \vert Q_\mathrm{L, R} \vert $)を高温熱源へ伝えることが出来てしまう(図B.10-右)。よって可逆ヒートポンプよりも効率の良い不可逆ヒートポンプは熱力学第二法則クラウジウスの表現に反する。よって仮定した不可逆ヒートポンプの成績係数が可逆サイクルのヒートポンプとしての成績係数よりも高いことは間違いであることが分かる。つまり、可逆サイクルのヒートポンプとしての成績係数は現実の不可逆ヒートポンプの成績係数よりも高いことが示された。

以上のように、熱機関としてもヒートポンプとしても同じ効率で動作できる可逆サイクル(可逆熱機関・可逆ヒートポンプ)では逆の働きをさせることが出来るため、可逆サイクルの効率・成績係数よりも不可逆熱機関や不可逆ヒートポンプの効率・成績係数が高いと熱力学の第二法則クラウジウスの表現に反する。このことから、同じ二つの熱源間で動作する可逆サイクル(熱機関・可逆ヒートポンプ)の効率は必ず不可逆熱機関や不可逆ヒートポンプの効率よりも高くなる。

$\displaystyle \eta_\mathrm{可} \geq \eta_\mathrm{不}$ (B.6)

$\displaystyle \epsilon_\mathrm{可} \geq \epsilon_\mathrm{不}
$

図 B.10: 可逆サイクルと不可逆ヒートポンプの比較(クラウジウスの表現)
\includegraphics[width=150mm]{figures/RevIrrevPumpClausius.pdf}

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